大ヒット中! 新生「ツアーステージ GR」ドライバーから考えるブランドアイデンティティー
2020/07/06
11月月間店頭売上No.1のスマッシュヒット!
11月8日に発売されたブリヂストンスポーツの「ツアーステージ Xドライブ GR」ドライバーが好調です。
発売早々に人気に火が付き、11月は店頭売上1位。半年間の集計でも、発売後たった一ヶ月にもかかわらずベスト10(ドライバー部門)に入るなど、かなりの勢いで売れています。
ブリヂストン「ツアーステージ」のドライバーとしては、ひさびさの大ヒットモデルになりそうな気配です。
「GR」ドライバー 飛びの秘密とは?
「TOURSTAGE X-DRIVE GR」ドライバーと言う名前のドライバーは、今回で5代目。2年ごとに出ているので、なかなか続いたブランドと言えそうです。
2代目からは、赤を基調とし「ツアーステージ」の中でも大容量で高弾道のドライバーというコンセプトがはっきりしたと思います。今回は3代続いたイメージカラーの”赤”を鮮やかなイエローに変更しています。
クラブの特徴ですが、週刊GD連載でも書きましたが、主に以下の様な要素があげられると思います。
- 弾道が高い
- ボールがつかまりやすい
- 初速性能が高い
- 重心特性のバランスが良く、扱いやすい
1.と2.の要素で、ボールはハイドローになりやすくなります。
3.のボール初速の速さは、正直それに近い性能を持つクラブも存在しますが、市場ではトップクラスでしょう。多くのプロがこの点を評価しているようです。
4.は、クラブ設計家の松尾好員さんの測定(週刊GD ギアプロファイリング)によると、重心距離が37.7mm、重心深度が37.7mmと、飛びとやさしさを考慮しながら突出したスペックにしていないのがわかります。
ロフト角が多く、ライ角がアップライトなことは特徴的ですが、ヘッド特性はバランスを重視しています。
「GR」ドライバー人気の理由とは?
私自身も試打する機会に恵まれ、週刊GDで連載している「ゴルフギア探検隊」でも、各メーカーのドライバーを取り揃えて打ち比べる企画でも、この「GR」をかなり高く評価しました。弾道解析器による測定データでも、実際に広いドライビングレンジでコースボールを使った試打を行っても、非常に高い飛距離性能があったのがその理由。試打企画をご一緒したプロも同意見でした。
マーク金井さんのブログやQPさんのブログでも高評価だったようで、私の評価はともかくとしても、メディアでの全体的な高評価は販売好調の一因になったようです。
しかし、最も人気に貢献したのはツアープロの使用ではなかったかと思います。
秋口に「Xドライブ プロトタイプ」(上写真)という名のドライバーを、宮里藍プロを始め、ブリヂストン契約プロがこぞって使用を開始しました。これがNEW「GR」ドライバーとして商品化されるモデルです。
この時は、ブラック基調にイエローのラインが入っていました。
このことをメディアで取り上げられ話題になる一方、ブリヂストンではティーザー広告や宮里プロの感想を配信するなどして期待感を醸成しました。このプロモーションとプロ使用率の高さが、大いにゴルファーの関心を呼んだようです。
商品発表会では、池田勇太プロが司会をするなど、契約プロも積極的に露出したのも効果が高かったと感じます。
新「GR」、そしてツアーステージのブランドアイデンティティーとは?
さて、市場で高評価をもって迎えられた新生「GR」ドライバーですが、個人的にはこれほどのヒットになるとは思いませんでした。
性能は前述したように文句なし。しかし、製品版となったイエロー基調のカラーリング、そして特にクラウン部のデザインに抵抗のあるゴルファーが多いのではないかと感じたためです。
もう一点、気になったのは「ツアーステージ」として、「GR」としてのブランドアイデンティティーが見えにくかったことです。
ブランドアイデンティティーとは、そのブランドが持つ個性の事で、特徴やターゲットとなるユーザーの設定も含まれます。ブランドが打ち出したいコンセプトといっても良いと思います。そのブランドが差別化する要因ともいえるでしょう。
私が神経質なのかもしれませんが、「GR」ドライバーの特徴となっている「溝」(=パワースリット)、クラウン部の派手なデザイン、弾道調整機能などは、すでにテーラーメイドから市場に提示されたものです。
実際には、溝はつくりも違いますし、クラウンのたわみを最大化するという効果も異なりますが、「溝」というキーワードが重なってしまうのは独自性、差別化という点からいえばマイナスです。それは、クラウン部の派手なデザインや”カチャカチャ”と呼ばれる弾道調整機能にも言えます。
テーラーメイドのブランドアイデンティティはその点わかりやすく、革新性。ウェイト変更機能や”カチャカチャ”の弾道調整機能、ヘッドを白にしたかと思えば、ソールに溝を設けたり、ウェイトが上下にスライドする機能がついたり、フェースがカーボン素材になったりと、これでもかと新機軸が登場します。
結果的に、他のメーカーがそれらを追随することも少なくないわけですが、これはミート戦略といって、小規模メーカーの差別化要因を無効化する方策で、どちらかと言えば規模の大きいメーカーが採用する戦略です。規模感の小さい国内メーカーが採用するのはリスクが大きくなります。
テーラーメイドと対照的なのは、タイトリストでしょう。徹底して、プロ・上級者向けのブランドとしてのアイデンティティーがはっきりしています。
機能面でも気を衒うことなく、看板ボールの「PRO V1」や「MB」、「CB」アイアンなど、性能やデザインを大きく変えません。テーラーメイドを革新とよぶなら、タイトリストは保守と呼んでもいいかもしれませんw
近年の国内におけるタイトリストの好調ぶりは、こうしたコアファン層をしっかりと確保しつつ、例えばドライバーでロフト角10.5度を使用するようなアベレージ層にも訴求できていることに起因します。「AP2」アイアンに代表されるように、それらのゴルファー向けのモデルを、あくまでもブランドアイデンティティーが毀損しないように展開しています。
この2社は、わかりやすい比較ですが、他にも、例えばピンのような、しっかりとしたブランドイメージがわきやすいメーカーがあります。ブランドの特徴や個性をはっきり提示し揺らがないので、ブランドに対して、共通したイメージをゴルファーは認識しています。そのため、そのユーザーは新モデルが出た時には、まずそのブランドから購入を検討するでしょう。顧客生涯価値の点から言っても、ブランドイメージを保つことは重要なのです。
「ツアーステージ」のブランドイメージといえば、国内の強いプロが使用していたこと。プロが使用するということです。その意味では「GR」はハマったとも言えますが、プロ・上級者が使用するシリアスなクラブという意味合いでは、クラブの特性はかなりやさしく、飛びを重視したつくりです。
奇しくもCMでも「あなたのツアーステージのイメージが変わる」という言葉があり、ブランドイメージの変更をメーカー自らがうたっています。これはアイデンティティーを脅かす可能性もある大きな決断です。
なので、今後の展開としては、「GR」=イエローであるとか、「GR」=高弾道ハイドローといった認識されやすい特性をブランドのアイデンティティーとして持ちつつ、更に重要なのは、ブランドの持つ理念を明確にすることが肝要でしょう。
性能面を評価して購入してくれるゴルファーはもちろん貴重です。しかし、そうしたゴルファーはさらに良いクラブが登場した時にたやすくそっちに移ってしまう顧客でもあります。
常に他者を圧倒する性能を持つモデルが、毎年リリースできればいいのですが、より重要なのはブランド・エクイティ(ブランドの資産価値)を高めて、ファンを醸成することではないかと考えます。かつての「J’s」はまさにそういうブランドであったわけです。
この12月には、圧倒的なブランド・エクイティをもつ「ゼクシオ」の新作が登場しています。「ゼクシオ」は国内ブランドの中でははっきりとしたアイデンティティーをもっていて、おそらく「ゼクシオ」というだけで、打ちもせずに購入するゴルファーも少なくないと考えられます。
私個人としては、昔からのブリヂストン党ということもあり、今回のNEW「GR」のヒットを起爆剤にゴルフギアが売れたり、契約プロが活躍して欲しいなと思います。ちょうど、大器と言われた宮里優作プロも初優勝し、勢いが続きそうな気配なのは好材料ですね。